となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 ヒャー!
 思わず悲鳴を上げそうになった。

 さっきの知らない男が、後から見下ろすように立っていた。

 髪一つ乱ざず、落ち着き放った目が、チラリと私を見る。
 まだ、息が整っていない私と、同じ距離を走って来たとは思えない。

 
 マズイ!!

 逃げなければと思うが信号は赤、飛び交う車の道路を渡る事は出来ない。
 とにかく逃げなければと、向きを変えて走り出そうとしたのだが……

 エェェェッーーーー


 あんなに必死で走ったのに、目の前に現れたのはさっきの公園の入り口だ。

 どうなってるのよ?
 魔法か?トリックか? まさか異次元の世界に迷い込んだか?

 自分がどんな表情になっているのか分からないが……

「あははっ あははっ」

 知らぬ男が声を出して笑いだした。
 笑った顔は、意外にも心の底から笑っているように、楽しそうだった。

 だが、知らぬ男に、のんきに笑われている場合ではない。

 無視して、青になった信号を渡ろうとすると。

「おいっ! 待てって!」

 男の声が、頭の上から降ってくる。

 聞こえぬふりして歩きだした。


「そんなに怖がるなって。篠山友里さんだろ?」

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