となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 驚いて、またもや足がとまる。

 私は振り向き、マジマジとその男の顔を見た。
 男は、勝ち誇ったように、私を見てニヤリとした。しかし、いくら見ても、やはり知らない人だ。

 私は、その男と目が合うと、首をかしげ、分からないというジェスチャーをした。

 
 知らない男が、自分の名前を知っている。この上ない恐怖に襲われ、表情が凍り付いたのが自分でもわかる。

 この男は誰? 誰よ?


 「ったく、しょうがないなぁ」

 男は、ガシッと被っていたニット帽を掴み取ると、軽く髪を整えた。そして、ダウンの内ポケットから、眼鏡を取り出すと、サッとかけた。

 「あっー あっー  ひ、広瀬ー!」

 街中である事も忘れ、大きな声を上げてしまった。
 

「おいおい、いきなり呼び捨てか…… まあ、いいか」
 
 その言葉に、私は慌てて頭を下げた。
 どうしよう……

 こういう時、なんて言うんだっけ?
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