となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
「まだいいじゃん」
 
 そんな声も、耳に入らない。


 堀野さんが、社長らのテーブルに頭を下げた。

 
 私は、そのまま堀野さんを追い越し、社長らのテーブルの前に立った。



「失礼します」

 丁寧に頭を下げた。


「ああ……」

 社長も、何かようか?とでもいうように、私の方へ顔を向けた。



「広瀬社長! そろそろ帰りますよ!」


 一也は、一瞬驚いた顔をしたが、ほんの少し顔を緩めると、すっと立ち上がった。


 私は、くるりと向きをかえ、店のドアへと向かった。


「おじさん。それじゃあ、また……」

 一也が社長に頭を下げる。
 おじさん? そんなに親しい間柄なんだ。
 うん? 何か引っかかる……


 一也は、スーツのポケットから財布を出すと、数枚の一万円札をボーイに渡した。


「わるいな一也!」

 社長が意味ありげに手を上げて言った。

「いいえ……」

 一也は、軽く頭を下げたかと思うと、私の腰に手を回した。


「ええーーーー。」

 店中の社員から悲鳴が上がった。

 そして、社長の大きな笑い声が響いた。


 しまったーーーーー。
 私は何をやってるんだ!


 一也と帰りたい思ったけど……
 酔いが一気に覚め、顔がさーっと冷たくなた。

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