となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
「いやー。めでたい。広瀬一也三十歳目前に、初恋かー」

 猛が、勝手にグラスを上げ、しみじみと言う。


「ふざけやがって! だいたいお前らだって、まともに女と付き合った事ないだろうが。知った面するな!」

 すると猛が突然、姿勢を正した。
 

「実話な…… 俺、結婚しようと思っとる」


「はああああーーー」

 俺と真治の声が静かな店の中に響き渡った。


「いやー。俺さー、マジで惚れちまった女がいるんよ。俺の工場、一緒にやって行こうって言ってくれたんだ。俺、あんな真っすぐな女初めてでさー」

 猛だって女にはもてる。今まで、特定の女なんて居なかったはずだ。綺麗な姉ちゃんと遊んでばっかりだ。俺も人の事は言えなないが……


 だが、手にしたグラスを見つめている猛の顔は、俺が見てもかっこいいと思える男の顔だった。

 猛とは長い付き合いだが、こいつのこんな真剣で真っすぐの目を見たのは初めてだ。それだけで、猛が本気だって事が分かる。

 なんだか嬉しい気持ちと、自分が置いてかれたような複雑な気持ちがした。


「まあ一也、もう一度、山ノ内建設とやらに行って来い。そうすりゃ、分かる事もあるさ」
 
 猛が、先輩面して偉そうに言った。

「そうだな、行ってく見るしかないんじゃねえか。まあ、猛もめでたい事だし、とりあえず、乾杯しようぜ!」


 俺達は、カチンッとグラスを交わした。
< 24 / 125 >

この作品をシェア

pagetop