となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 足早に公園を抜ける社長の後に続く。さっきから、気にはなっていたのだが、なんとなく周りの視線を感じる。
 原因は社長。スーツ姿に体格も良く、眼鏡を外し、少し髪をラフにした社長はやはり目立つのだ。昨日の私服の少し軽い感じでもなく、かと言って眼鏡をかけた時の冷たい感じでもない。この中途半端なオーラの社長は、はっきりいって完璧にカッコいい。
 そんな社長と並んで歩く事に気が引け、一歩後ろをついて歩いた。
 
 すると、社長の手が伸びてきて、また私の腕を掴んだ。

「迷うとやっかいだからな……」

 そう言って社長は、振り向くわけでもなく、前を向いたまま私を引っ張って歩いた。



「いらっしゃい!」

 公園から数分歩いて入った居酒屋は、小さいが小綺麗な隠れ家的な店だった。
 中年のご夫婦がやっていて、愛想のいい奥さんが奥のテーブルへと案内してくれた。


「ふふっ。いつものでいいのかしら?」
 
 奥さんが、少し笑みを含ませて言った。

「ええ…… とりあえずお願いします」


「彼女さんは、お飲みもはどうします? 食べたいものがあったら言ってくださいね」

 そう言って、奥さんは私の前にメニューを広げてくれた。

「生ビールで」

 私より、社長が先に答えた。


「あら?」

 と、私を見た奥さんに、私はにっこりと頷いた。



 そして、運ばれてきたのは、ナスの煮びたし、焼き鳥、ぷりぷりのお刺身。

 生ビールのジョッキを持ち上げて私に向けた社長に、私も慌ててビールのジョッキを持ってってカチンと交わした。


「さあ、食えよ!」


「はい!」

 と、答えた私はすでに箸を持っていた。


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