となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 社長の目は冗談を言っているうようには思えない。

「あの…… そう言われましても……」


 正直どう答えるべきか分からない。そもそも、意味が分からない。


「昨日も泊まったんだ、今日泊まっても同じだろ?」


 いやいや、そういう問題じゃないでしょ。

 私は、少しづつ後ずさり、逃げる準備にかかった。夕食もご馳走になった訳だし、挨拶だけはしなければと、大きく息を吸った。


「社長! ご馳走様でした」


 ガシッ!

 離れたはずだったのに、社長の手に腕を掴まれた。


「帰りたいのか?」

 社長の目が、じろっと私を見る。


 帰りたいのか?と聞かれれば、帰りたくないのが事実だ。だからと言って社長の家に泊まるのはどうかとも思う。


 社長の目が、答えを求めるようじっと見ている。


「帰りたくはないのですが…… 帰らないわけにも……」


 何を言ってるんだ私は……


「行くぞ! それから、社長と呼ぶな!」


 社長に腕を引っ張られ歩き出した。



 そして、足を踏み入れたのは、遅くまで営業しているドラックストアー。


「ほら。必要なものを買え。顔につけるやつとか……」


 えっ? 顔につけるやつって? なんだか、おかしくて笑ってしまった。


「笑うな。そういうもの知らないんだよ……」

 ふてくされたような社長の顔は、意外に可愛かった。ストアーの中をウロウロしている社長は本当に知らないんだろう。

 気付けば私は、笑いながら必要なものをかごに入れていた。

 
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