となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 今朝見たはずの部屋なのに、拝見する余裕もなく飛び出してしまい、今、初めて見た驚きを味わっている。

 広い!
 リビングには、センスの良い高級そうなソファーが並び、ピカピカのカウンターキッチンが構えていた。

 明らかに、リビングだけでも私のIKのアパートより広い。


 部屋に入ったものの、どう振舞ったらいいのかわからなくて落ち着かない。


 広瀬さんは、多分、今朝私が寝ていたと思われる寝室へと入っていった。


 私は、リビングの片隅で鞄を抱えて立ち尽くしていた。何も言われてないのに、ソファーに座るわけにもいかず……
 このまま広瀬さんが、部屋から出てこなかったらどうしたらよいのだろうか?

 まもなくして、上着を脱いだ広瀬さんが寝室から出てきた。私を見るなり、ぎょっと目を見開いた。

 「な、何しているんだ?」


 「えっ。どうしたらよいのかと……」


 「座ればいいだろう?」

 「どちらに?」

 またもや広瀬さんは、驚いたように目を見開いた。


「ソファーに座ればいいだろ?」


「こんな高級ソファーに、私が座るわけには……」


「はあ? ここは、社長室じゃない。俺の家だ好きにしろ」

 広瀬さんは呆れたように、ドサッとソファーに座った。


 そう言われても、好きになど出来るわけなどなく、広瀬さんから一番離れた場所に、小さくこし腰を下ろし、コートとカバンを膝の上に置いた。


「おい!」

「はい!」
 慌てて返事をする。



 広瀬さんは立ち上がると、ドサッと私の隣に座った。
 
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