となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 隣りなんて座らないで欲しい。緊張しすぎて、ひっくり返りそうだ。
 確かに、男性の部屋に付いてきてしまった自分が悪い。だけど、覚悟がまだ……


 広瀬さんが、ゆっくりと私の方に体を向けた。


 「なあ……」

 広瀬さんの言葉に、私も恐る恐る顔を向ける。


 広瀬さんと目が合った。それは、ちょっと困ったような優しい目だった。


「はっきり言っておくが、俺は気が利かない。だから、気の利く事は言ってやれないし、気の利く事もしてやれない。
 だけど、嘘は言わない。好きにしていいと言ったんだから、好きにしていいんだ」

 うんー。
 言っている意味が分かるような、分からないような……
 でも、私はコクリと頷いていた。

 広瀬さんの手が伸びてきて、私の頭をクシャリと撫でた。


「風呂入りたいだろ? 悪いが自分で入れてくれ。分からない事があれば遠慮なく聞けよ」

 また、私はコクリと頷いた。
 広瀬さんは、少しほっとしたように目を細めた。

 その顔に、私も胸の重みが少し軽くなった気がした。


「あの…… 着替えを貸していただけませんか?」


「ああ勿論だ。こっちに来い」


 立ち上がった広瀬さんの後に続いて、寝室へと向かったが……
 寝室に入っていいものか?と躊躇していると……

「今朝まで寝てただろ?」

 わあーっ。整えられたベッドに目を向けてしまい、カーっと顔が熱くなった。


「コートはここにかけろ。着替えはここにあるから、好きなのを着ろ」

 広瀬さんは、大きなクローゼットの扉を開けた。

 中はウォークインになっていて、高そうなスーツやジャケットがきちんと並んでいる。反対側にずらーっと並ぶ引き出しの一つが開けがられると、トレーナーらしき部屋着が並んでいた。


「着替えはこの袋に入れておけ。明日の朝にはクリーニングできるから」

 目のまえに、クリーニングと書かれたビニールの袋が差し出された。

「はい? そ、そんなクリーニングなんて……」


「明日困るだろ? 早く風呂入って来いよ」


 ここは、ホテルですか?
 あまりに、次元が違い過ぎてついていけない……








 




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