となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 彼の会社の前まで行くと、カバンからスマホを出した。

 仕事の終わる時間を確認し、待ち合わせる。
 何度も行ってきた、いつもと同じ待ち合わせのはずだった。
 だって、今日はバレンタインデー。
 彼だって、私の事を待っていると思っていた。

 スマホをスライドし、彼の名が画面に出た時だ。
 
 聞き覚えのある笑い声に、顔を上げた。
 そこには、大好きな彼の姿があった。
 思わず、走っていこうとした足が動かない。

 確かに目の前にいるのは彼だ。
 だけど……
 彼の隣には、可愛らしい女性がピタリと寄り添っている。
 しかも、彼の腕は彼女の腰にまわり、二人は目を合わせ笑っている。

 段々と近づいてくる二人を、じっと見つめる事しかできない。


 すれ違う彼に言葉を発しようと口を開くより早く、彼の声が被さった。

「こんばんは」

 彼は、ニコリと笑顔を私に向けた。

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