となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 ガチャリとドアの空く音に、慌ててスマホをカバンにしまった。

 グレーのスウェット姿に、首からかけたタオルで髪を拭きながら入ってきた広瀬さんを見た瞬間、私の胸の音は確実に大きく高鳴った。
 スーツでもなく、ダウンジャケットでもなく、その中途半端なやつでもなく、新たな一面は素顔を見ているような感じだ。肩幅が広くて、がっしりとした体格が男らしくて目のやり場にこまる。
 なんでしょう、この苦しい胸の音は?


 「おい。連絡先教えろ。住所もな」


 広瀬さんは、テーブルの上に置いてあったスマホを手にして、私の隣りに座った。
 シャンプーのにおいが鼻をかすめ、くらっとくる。こんな格好で、こんな近くに座られたら、意識するなと言う方が無理だ。


「はい」

 連絡先を教える必要があるのかと思いながらも、胸の片隅で連絡先を交換できる事を嬉しく思う自分がいた。
 これだけお世話になっておきながら、連絡先を教えないのも失礼だと自分に言い聞かせ、スマホの画面を広瀬さんのスマホへかざした。

 なんで住所までと思ったが、この時はあまり深く考えていなかった。


 時計の針は、もうすぐ日付を越えようとしていた。


「そろそろ、寝るか?」


 広瀬さんが立ち上がる。

 私はどうすればいい?

 


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