となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 キングサイズの大きなベッド。二人で寝ても十分な広さだ。

 広瀬さんが布団をめくり、ベッドに入る。

 反対側からベッドに入ると、広瀬さんは私に背中を向けるように横になっていた。
 ベッドサイドギリギリの所で、広瀬さんに背中を向けるよう私も横になった。


 「おやすみなさい……」

 私の方から、声をかけた。


 「ああ…… おやすみ」

 広瀬さんが、腕を伸ばし、ベッドサイドの明かりを消した。

 部屋が真っ暗になり、シーンと静まり返る。寝るのだから当たり前だ……



 しばらく、じっとしていが、眠むれない……

 背中に、広瀬さんのぬくもりを遠くで感じる。
 

 なんだかわからないが、無性に寂しくなってきて涙がでそうだ……
 私、いったいどうしちゃったんだろう?

 人に背中を向けられるって、こんなに切ないものだとは知らなかった……
 いや、もしかしたら広瀬さんだかなのかもしれない……


 寂しいのに、寝がえりをうつ事も出来ず、ただじっと耐えるしかない。
 広瀬さんはもう眠ってしまったのだろうか?

 すると、背中で寝がえりをうった広瀬さんを感じた。
 その瞬間、ぐーっと体を引き寄せられるのが分かった。そのまま、すぽりと広瀬さんの腕の中にはまってしまった。


「そんな、ギリギリの所で寝てたら落ちるぞ!」

 言葉とはうらはらに広瀬さんの声は優しかった。

 私は、自分でも認めるしかないくらい嬉しくて仕方なかった。


「そんなに、寝相悪くないですよ……」

 そう言った私の声は、今にも泣きそうにかすれていた。


 それでも、広瀬さんは私を抱いたまま離さなかった。

 私も、広瀬さんの腕から離れようとしなかった。


 広瀬さんの腕にすっぽり包まれたまま、いつの間にか深い眠りに落ちていた……

 
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