となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 広瀬さんが車で送るというのを、なんとか宥め電車で出社した。
 いつもの朝を、無事に迎える事が出来た。昨日と同じ服だが、制服があるのは有難い。

 忙しく業務を熟し、いつもと変わらない日常のはずだが、胸の奥がどきどきしていて、なんだか浮かれている感じだ。

 「なんかいい事あった?」

 堀野さんが、書類をまとめる手を動かしながら言った。


 「えっ?」

 思わず、パソコンのキーボードを打つ手が止まった。


「だって、なんか今日は、いつもに増してニコニコして、声のトーンも高いわよ」


「そんな、何もないですよ」

 慌てて、キーボードの手を動かす。


「まあいいわ。また、ゆっくり聞かせてね」

 堀野さんは、うふっと笑って去っていった。



 定時に仕事を上がり、自分のアパートへと向かった。
 
 玄関の鍵を開け、ドアノブを回した瞬間になにか違和感を感じた。玄関に男物靴が無造作に並んでいる。


 「おお、帰ったのか?」


 部屋の奥から声がし、こちらに向かってくる気配を感じた。


「どうして……」

 そこに立っていたのは、私の中ですでに元カレとなっている、野村隆だ。
 私は、無意識のうちに、玄関の外に出ていた。


「何やってんだ。中に入れよ」
 野村隆は、いつもとかわらない笑顔を向けていた。

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