となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
「お前こそ誰だ?」

 頭の上から、静で冷たい声でが響いた。
 その声に、私は驚きと安堵で泣きそうな顔を向けた。
 そこには、冷静な表情の中に、怒りの目をした広瀬さんが立っていた。スーツ姿だが、眼鏡を外した、中途半端なバージョンで。

「俺はこいつに話があるんだ。部外者は消えろ」
 
 野村が面倒臭そうに言った。


「友里は、俺の女だ。お前のほうが部外者だ」

 えっ!
 友里って言った? 俺の女って言った?
 パニック状態で、広瀬さんの方を見る。彼は、何ひとつ動じず、冷静に野村を見ていた。


「ああ、そういう事か? 友里、俺達お互い様って事でいいよな?」
 
 野村は勝手に納得したように私を見ると、玄関に置いてあた靴を履き出した。

 お互い様って何?
 両手に力が入り、握った拳が震える。

 バカにしないでと、声を上げようとした時、私の拳ががっちりとしたものに包まれた。広瀬さんの手だ。広瀬さんを見ると、「俺にまかせろ」と小さな声で囁いた。その目は、力強くうなずいたあと、優しく私を見た。



 野村は、バカにしたように、広瀬さんと私をチラリとみて玄関を出た。

 悔しい……
 涙が溢れそうになった。


「あ、そうそう。私の祖母が、立川総合病院の内科病棟に入院していましてね。先ほど、お見舞いに行ってきたところなんです」


 広瀬さんが、落ち着いた声で話始めた。
 突然何を言い出すのかと、私の頭は?なのに……
 野村は、ピタリと足を止めた。ゆっくりと振り向いた野村の顔は、ひくひくと引きつっている。


「それが、なにか?」
 明らかに、野村の声は動揺していた。


「いえ。とても親切にしていただいている看護師さんがいましてね。少しお話しただけです。なんだか今日は早く帰ると、慌ててましたけどね……」


「貴様! 何を言った?」

「私は何も。スマホを確認してみたらいかがです?」

 野村は、落ち着きない手で胸の 内ポケットからスマホを出した。画面を見ると、みるみるうちに顔が青くなって行った。
 慌てて帰ろうとする、野村の背中に向かって広瀬さんが言った。


「渡辺商事の野村隆さんですよね」
 

「あんたいったい何物だ?」
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