となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 「洋服は全部買いかえればいい」

 クローゼットから服を出した私に向かって言った。


「そんなお金ありません」


「全部俺が買い替える。それから、それもだ……」

 広瀬さんが、少し顔を赤らめて、顎を指した先には、さっき袋に詰めた下着があった。


「キャー。エッチ! 何見てるんですか?」


「そうじゃない! 頼むから、もう、何も持っていかないでくれ」

 広瀬さんは、眉を顰めて言った。



 あれもこれも買い替えると言う広瀬さんに、呆れて何も言えなくなった。


 本当に最低限の荷物だけを許された。でも、どうしても置いていけないものがある。

 大きめのパキラと大きなサボテン三つ。幸福の木。それらを玄関に運んだ。


「これもか?」

 広瀬さんが驚いたように目を開いた。


「これだけは、お願い…… だって、ずっと大事に育ててきたの……」

 私は真剣に訴えた。


「わかった……」

 広瀬さんは、仕方ないという表情で頷いてくれた。





 だが、私はこの大事な植物達をもって、あのコンシュルジュの前を通る事になったのだ……





 
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