となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 必死発しで、広瀬さんと二人でなんとか植物達をマンションの部屋へと運んだ。

「はあーー」

 二人で玄関に座り込む。

「ありがとうございます」

 私は、座ったままお礼を言った。


「仕方ないだろ? 持って来なきゃ、お前も来ないだろ?」

 毎日手をかけなければならない植物達ではないが、さすがに何日も部屋を空けるとなると気になる。だからと言って、人様のマンションに持ち込んでいいものなのかは分からないが……


「さあ、どこに置く。好きなところを決めろ」

 広瀬さんは、立ち上がるとスーツを脱いでワイシャツの袖をめくりはじめた。


「えー! いいんですか?」

 思わず声が上がってしまった。だって、こんな素敵なマンションの好きなところに置けるなんて夢のよう。

 私は、スキップする勢いで、リビングへと向かった。


 広いリビングをぐるりと見まわし、パキラを窓際の殺風景な白い壁に決めた。カウンターには小さ目な方のサボテン。廊下には大きなサボテン。幸福の木は、ソファーの間。


 それだけで、部屋の雰囲気が随分変わった。そもそも、この部屋には生活感が全くない。私はこの部屋でどうやって生活していくのだろうか?
 というか、いつまでここに私はいるのだろう?

 冷静になって考え始めると疑問が浮き上がってくる。なんとなくだが、この流れで、ここに来たって事は、同棲するって事なのか?
 改めて、実感してしまい顔が熱くなってきた。


「おおー これだけで、えらく雰囲気かわるもんだなあ」

 後ろからふいにかけられた声に、びくんっと胸がはねた。広瀬さんは、感心したようにうなずいた。


「嫌じゃないですか?」

 

「そんな分けないだろぅ。なんだか…… 部屋らしくみえるな。ふっ」

 広瀬さんは、私の肩に手を乗せ、嬉しそうにほほ笑んだ。一気に胸がきゅーんと締め付けられた。
 




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