となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 こんなに、自分の体がおかしくなってしまうとは……

 彼の男らしい大きな胸の中で顔をうずめる。
 体の火照りが冷めてくると、頭の中も冷静になり、恥ずかしくて顔を上げられない……


「顔、見せろよ」

 彼の手が、私の髪をかきあげる。

 見せられるわけもなく、寝たふりに徹する事にした。


 だが、彼の手は撫でていた頬を持ち上げた。目を開けるものかとじっとこらえる。


 すると唇に、彼の唇が重なった。

「寝たふりするな」

 バレているようだ。仕方なく、そっと目を開けた。
 彼は、頬を少し吊り上げ、いたずらっぽく笑った。


「もう、眠い……」

 私は、また目を閉じた。嘘じゃない。彼に狂わされた体は力を失っている。


「悪いが、俺はまだ足りない。友里がもっと欲しい……」

 くるりと向きを変えられ、後ろから彼に抱きしめられた。自然と彼の手が胸に触れる。


「い、いや…… もう、無理……」


 彼の唇が、首筋を這ってくる。


「俺が、どれだけ友里が欲しかったと思っているんだ」

「二日間でしょ!」

 なんとか、力を振り絞って彼から離れようとした。


「そうじゃない。初めて友里を会社で見た時だ。覚えてないだろう?」


 彼の言葉に、体の力がふと抜ける。
 私が彼を初めて見たのは、数か月前だ。窓拭きをしていて目が合って、頭を下げたのを覚えている。なぜなら、女子社員がカッコいいと騒ぐと、営業部の職員が、広瀬社長は、冷酷で厳しい人だから気を付けろと言ったからだ……
 そもそも、大手グループの社長などかかわる事は無いと思っていたのに……

「覚えているわよ。でも、目が合っただけじゃない」


 彼は、首筋にキスをし、胸を弄り始めた。


「ああ…… 一目惚れだった……」

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