となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 彼は一体誰だったのだろうか?
 私が付き合っていたのは誰だったのだろうか?
 頭の中が混乱するばかりだ。
 
 彼と過ごした楽しい時間は全て嘘……
 好きだったのに……

 そう思った瞬間、それまで動いていた足の力が抜けて、近くに見えたベンチにストンと腰を下ろした。

 
 頭の中が、すーっと白くなっていく気がした。

 ぼーっとしまま、手にしていた紙袋から箱を出し、膝の上に乗せた。

 綺麗に結ばれたリボンを解く……
 蓋を開けれると、様々な形のチョコレートが並んでいた。
 美味しそうに輝いて見えたチョコレートが、色褪せて見える。

 バレンタインデーに、公園のベンチで一人、チョコレートを食べている女の子の姿なんて、失恋しましたと皆に教えているようなものだ。
 だけど、今の私にはそんな事を考える余裕などなくて、ただ、彼にあげる為のチョコレートを無かったものにしたかった。

 チョコレートを一粒指で摘まむと、口の中に入れた。




 そして……
 
 今……

 私は、見知らぬ男から、走って逃げているのだ!

< 8 / 125 >

この作品をシェア

pagetop