となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 リビングに買ってきたものが、散乱している。ニットの袖をめくりあげ、「よっしゃー!」気合を入れた。

 ピンポーン
 インターホンが鳴った。彼の帰宅する時間には早すぎるし、そもそもインターホンなど鳴らさないだろう……
 お客様だったらどうしよう、出てもいいのか迷いながら、モニターを覗いた。
 そこには、オレンジ色のトレーナー姿の人のよさそうなおばさんの笑顔があった。一目でハウスキーパーさんだと分かった。

 しまった! この散乱した部屋に通す分けにはいかない……


 玄関のドアをそっと開けるよ。

「こんにちは、クーリンハウスの三好です。お掃除に伺いました」

おばさんが、掃除道具を持って玄関の中へと入ってきた。


「あっ…… すみません…… 今散らかっていて……」


 おばさんは、きょとんとした後、声を出して笑いだした。

「アハハ! だからお掃除に来たんですよ」


「ああ、そうか…… でも、なんだか申し訳なくて……」


「面白い方ですね。広瀬様との契約ですので、一時間だけお掃除手伝わせてください」

 そう言われては仕方ない、私は頭を下げた。


「ありがとうございます」


 三好さんリビングに入ると、「まあーっ」と悲鳴をあげた。

「だから言ったじゃないですか?」


「そうじゃなくて、人が住んでいる部屋だなと思ったんですよ。今までロボットが住んでるのかと思うくらい、何もなかったものでね。なんか、安心したわ。さあ、やりましょう。時間内掃除というカテゴリーであれば、お手伝い出来ますので」

 三好さんは、少し興奮したように顔を赤らめて言った。


「はい。お願いします」

 私は、おおらかな三好さんの笑い声に心を許し、手伝ってもらう事にした。


「きっと、ご自分で物は置きたいでしょうから、私は、箱から出しますね」

 三好さんが雑用を引き受けてくれて、思ったより早くキッチンが出来か上がった。今まで何もなかったキッチンに、洗剤やふきんなどが置かれるだけで、命が吹き込まれたみたいだ。
 戸棚や引き出しには、鍋や食器が入った。

 ベッドカバーを私の好みの物に変えると、一気に寝室の雰囲気が変わった。

「カバークリーニングに出しておきますね」

 三好さんが、今まで使っていたカバーをまるめた。


「あっ。私が洗うので大丈夫です」


「まあー そうですか…… 良かった…… これで安心です」

 どういう意味か分からないが、三好さんは少し寂しそうにほほ笑んだ。


 
「困った時は、いつでも声をかけてくださいね」

 三好さんは時間になると、部屋の出来上がりに満足して帰って行った。






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