溺愛の価値、初恋の値段
何から、どうやって話そうか、一応考えてみたものの、上手く話をまとめられそうにない。
最初から、全部ありのままに話すしかなかった。
「一昨日の夜…………飛鷹くんが、ホテルに女性と入って行くのを、見かけて……」
「……それは、普通のホテル?」
「はい。駅前の……」
「うん。それで?」
「その夜は……仕事のミーティングがあったのに、飛鷹くんと連絡が取れないって、ロメオさんから連絡が……あ、ロメオさんは、ジェズアルドさんの息子さんで……飛鷹くんのビジネスパートナーで……」
「うん」
「同級生と、会っているって聞いて……楽しく飲んでるのかなと思って……一応、ロメオさんから連絡があったって伝えようと……おも、って……そ、そしたら……で、電話に……」
涙が込み上げてきて、声が詰まる。
音無さんは、わたしを急かしたりしなかった。
再び話し出すまで、黙って待っていてくれた。
嗚咽を堪え、なんとか呼吸を整えて、先を続ける。
「は、葉月さんが出て……ひ、飛鷹くんはシャワーを浴びてるから……って。そ、その日は帰って来なくって、き、昨日の夜、マンションの玄関で……ふ、二人がキスをしていて」
「それで、びっくりしてマンションを飛び出したの?」
「は、はい……来たバスに乗って、着いたのが駅前で……あ、歩いていたら……」
「僕に声をかけられた」
「……はい」
「うん、だいたいのところはわかったよ」
すっかり話し終え、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を見られるのが恥ずかしくて俯いていたら、「顔を洗っておいで」と優しく促された。
冷たい水で顔を洗い、再びダイニングテーブルへ戻ると、音無さんは冷たくなったお茶を淹れ直してくれた。
「水分、補給しないとね?」
温かいお茶は、喉を伝い、胸の中まで温めてくれるようだった。
ゆっくり、時間をかけて一杯のお茶を飲み干す頃には、気持ちもだいぶ落ち着いていた。
「あの……聞いてくれて、ありがとうございました」
「こちらこそ、話してくれてありがとう。ついこの間会ったばかりの人間には、言いにくいことだったよね?」
「いいえっ! 音無さんとは、ずっと前からの知り合いのような気がするから……」
「嬉しいこと、言ってくれるね」
「でも、本当のことだから……」
音無さんは、大きな手で顔を覆った。
「照れる。どうしよう……僕の娘がこんなにかわいいなんて」
「え」
「いますぐ、飛鷹くんを締め上げたい気持ちでいっぱいなんだけど」
「えっ!?」