溺愛の価値、初恋の値段
「…………」
マジマジと見つめてしまったわたしに、音無さんはくすりと笑う。
「彼に、会いたかった?」
訊ねられ、首を横に振った。
いま会っても、冷静に話せる気がしなかった。
「そうだろうと思ったから、海音さんから連絡するまで、電話もメールもメッセージも寄越すなと言っておいた。せっかく、こうして海音さんと二人で過ごせるのに、邪魔されたくないしね。ああ、でも、飛鷹くん以外のは、一応チェックしておいたら? 友だちから、連絡が来ていたかもしれないし」
「……はい」
スマートフォンの画面には、雅やロメオさん、京子ママや征二さんからの山のようなメッセージと着信履歴が表示されていた。
全員に電話して無事を伝えて謝るべきなのだろうけれど、何があったのか訊かれたら、また泣いてしまいそうだ。
申し訳ないと思いながら、音無さんの家にいること、心配をかけてしまったことを謝るメッセージを送った。
飛鷹くんを除く全員へ生存報告をし終え、顔を上げると、音無さんはキッチンで腕組みをしていた。
「あの……どうかしたんですか?」
もう十二時近いので、ランチの準備をするつもりなのだろうけど、何か問題でもあるのか、難しい顔で考え込んでいる。
「予定では、フランス料理を作るつもりだったんだけれど……なんだかボロネーゼが食べたくなって。でも、フレンチ畑の僕が作るとエセイタリアンだし、おしゃれなパスタじゃなくただのパスタになるんだよね。海音さん、それでもいいかな? フランス料理は、次の機会に披露するから」
真面目な顔で尋ねられ、噴き出しそうになった。
「音無さんが作るなら、ただのパスタもおしゃれなパスタになると思うので、大丈夫です」
「いや、本当にごく普通のボロネーゼになるんだけど」
「もちろん、それでかまいません! わたしも手伝います。ソースのレシピを知りたいので、横で見ていてもいいですか?」
「うん。でも、僕よりジェズのレシピのほうがいいと思うけど……」
「わたしは、音無さんのレシピが知りたいんです」
「そう? たいしたレシピじゃないけどなぁ……まず、材料をそろえようか」
普通のご家庭ではお目にかかることのない大きさの冷蔵庫を開け、次々と材料を取り出していく。
さまざまな食材が整然と収納されていて、購入日と賞味期限がきちんと書かれていていた。
音無さんから飛んでくる指示で動きながら、時折挟まれる手順の解説を聞く。まるで料理番組のようだ。