溺愛の価値、初恋の値段
飛鷹くんは、手を伸ばせば届く距離にいた。
どうすれば、言葉では表しきれないものを伝えられるのかわからずに、その首にしがみつく。
そのままわたしを抱き上げて、飛鷹くんはリビングからキッチンを素通りし、彼の部屋へ向かった。
わたしをベッドに下ろし、無言のまま、驚くほど手際よく服を脱がせていく。
「あ、あの……オムライス……」
「メインは先に食べることにしてる。取っておいて、食べられなくなったら困るし」
「でも……」
あっという間に下着姿になってしまい、シーツで隠そうとしたけれど、逃げ場を塞ぐように身体の上に跨られて身動きできない。
シャツを脱ぎ捨てた飛鷹くんの肉体美にドギマギしながら、視線をさまよわせる。
「あの、ひ、飛鷹くん……」
「まだ、気になることがあるの?」
(気になることは……いっぱいある……)
「海音、言いたいことがあるなら、早くして。正直……あんまり、余裕ないから」
急かされて、思わず口走ってしまった。
「は、葉月さんとは、どこまでしたの?」
飛鷹くんは、ピタリと動きを止め、憮然とした表情になった。
「ねぇ、海音。いまこの状況で、それ訊く?」
「で、でも……気に、なる……」
「何も……してないよ」
「で、でも……途中まではしたって……相性がいいって……」
「勉強を教えてほしいと言われて、アイツの部屋に入った途端に押し倒されたけど……何もされていないし、していない。相性なんか、わかるわけない」
(本当、だろうか。男子高校生とは、そういうことに興味津々の生き物だと京子ママや羽柴先生が言っていた……)
「海音。声に出てるから」
「ご、ゴメンナサイ……」
「ヤりたいサカリと言われれば、そのとおりだけど……咲良さんに言われたことが頭を離れなくて、そんな気にはなれなかった」
「お母さん……?」
意外な人物を持ちだされて、目を瞬く。
「海音に手を出すなって釘を刺されたときに、言われたんだよ。たとえ大人であっても、相手の女性の身も心も守る覚悟がなければ――責任を果たす覚悟がなければ、妊娠する可能性のある行為はするべきじゃないって」
(さすが、お母さん。ものすごく、念入り……)
「正直、そんなふうに真面目に考えているヤツなんか、滅多にいないだろうって思ったけど……正論だから。葉月にも、結婚を考えていない相手とヤるつもりはないって説明した。でもアイツ、ぜんぜん納得しなくて……。それで、元カノが忘れられないって言ったんだ。まるきり嘘ではないし。おかげで、根掘り葉掘り聞かれる羽目に陥ったけど……」
新たに聞く衝撃の事実に、泣きそうになった。
(こ、これっ、ヤブヘビって言うんじゃ……)
「……元カノ、葉月さん以外にも……いたんだね……」
「は……? なに言ってんの? 元カノは、海音でしょ。俺、海音以外と付き合ったことないけど?」
「え。つ、付き合ってた……の? わたしと飛鷹くん」
「……海音は、いったいなんだと思ってたわけ?」
「え……ええと……」
「念のため訊くけど……ここ最近の関係は?」
「か、家政婦と雇い主……」
「へぇ? デートしたり、ベッドで相手をするのも仕事に含まれる家政婦? すごく……万能な家政婦だね?」
契約上の正しい関係を口にしたわたしに、飛鷹くんはにっこり笑った。