溺愛の価値、初恋の値段
飛鷹くんのパンツ見物料として、ドライヤーで彼の髪を乾かすわたしは、何だか不思議な気分だった。
(飛鷹くんが、パジャマ着てうちにいるなんて……夢みたい。しかも、同じ匂いがする)
普段のお手入れの賜物か、我が家の安物のシャンプーを使っても、なめらかな飛鷹くんの髪は触り心地がいい。
ある程度、後頭部を乾かしたところで正面に回る。
目をつぶって大人しくされるがままになっている飛鷹くんは無防備で、まったく無害に見える。
中学三年生にもなれば、男子はだいぶむさ苦しくなっているのに、飛鷹くんは出会った頃とほとんど変わらない。相変わらず女の子のような顔立ちだし、身体の線も細いままだ。
(それにしても……まつげ、長っ!)
つけまつげやマツエクに頼る必要なんか、まったくなさそうだ。
(飛鷹くんでも、ひげとか生えたりするのかな……?)
「朝は、生えてるよ」
「えっ! ど、どうして考えていることがわかったの?」
「海音が考えていそうなことくらい、想像がつく」
「そ、そうなんだ……」
(わたしが飛鷹くんのこと意識してるのも、わかってるってことだよね? す、好きってことも……?)
なんとなく落ち着かない気持ちになって、視線をさまよわせているとがしっと手首を掴まれた。
「熱いってば! 焦げるからっ!」
「わっ! ご、ごめんねっ!?」
ぼうっとしている間に、ドライヤーの送風部分が思い切り飛鷹くんのおでこに当たっていたらしい。
「痛くない? や、やけどしてない?」
慌ててドライヤーを放り出し、形のいいおでこを覗き込む。
カサカサしている気はするけれど、赤くなったりはしていない。
「乾燥しちゃってるから、お母さんの化粧水つけるね?」
「いいよっ!」
「でも……」
「あのさ、海音。いま自分がどんな恰好してるか、わかってんの?」
言われてみれば、わたしは思い切り飛鷹くんの膝の上に乗りかかっていた。
今日はスカートを穿いているし、家の中なので素足だ。
「ご、ごめんっ! ひゃあっ」
慌てて離れようとして、テーブルにぶつかる。
「あぶないっ!」
ぐいっと腕を引っ張られ、今度は飛鷹くんに激突する。
お風呂上がりの飛鷹くんはぽかぽかしていた。
薄いパジャマを通して飛鷹くんの体温とごつごつした感触が伝わってくる。
その胸は、わたしがすっぽり収まるくらい広くて、背中を支えてくれている腕も見た目よりずっとたくましい。
心臓が一気に鼓動を速め、顔が急激に熱くなった。