溺愛の価値、初恋の値段
早く離れなくちゃと思うけれど、離れたら真っ赤になった顔を見られてしまう。
恥ずかしくて、逆に離れられない。


「海音」


耳元で囁かれ、くすぐったさにビクリと震えてしまった。


「な、なにっ!?」

「海音……海音は、やっぱり公立だけ受験するの?」


まさか、こっそり飛鷹くんが受験するはずの超難関私立高校に願書を出そうと目論んでいるとは言えない。


「う、うん。もとから志望していたS高を受けるよ。商業科か普通科で迷ってるけど」

「普通科にしたら?」

「でも、商業科のほうがいろんな資格が取れて、就職にも有利だって……」

「俺も普通科受けるし、同じクラスになれるかもしれないでしょ」

「飛鷹くん、S高受けるのっ!? だって……私立に行くんでしょ?」

「公立も一つくらい受けておこうかなと思って。中学も私立に行かなくて、よかったと思ったし……海音は、俺と一緒の高校、行きたくない? 一緒の高校に行けたら、楽しいと思わない?」


超難関の私立高校に受からずとも飛鷹くんと一緒の高校に通えるなら、そっちのほうが断然いいし、わたしは楽しい。

いまみたいに、学校では素知らぬふりをすることになったとしても、きっと楽しいと思えるだろう。

でも、飛鷹くんは本当に、楽しく過ごせるだろうか?
S高で、飛鷹くんは楽しく勉強できるのだろうか?

飛鷹くんは、勉強ができるだけでなく、勉強が好きだ。
知らないことを調べたり、考えて理解できるようになることが面白いんだと言っていた。

飛鷹くんが生き生きと過ごせる場所は、もっと広い場所――うまく言えないけれど、飛鷹くんが挑戦できる場所のような気がした。


「行きたいよ。でも、飛鷹くんがやりたいことができる高校に行くのが一番いいと思う」

「俺のやりたいことって、何?」


そんなことを訊かれるとは思わなかった。
焦って、必死に考えて、辿り着いた答えは……。 



「…………勉強?」



ふっと小さく息を吐いた飛鷹くんは、わたしの肩に顔を埋めて笑い出した。


「勉強って、なに? 普通、やりたいことのために勉強するよね?」

「ソ、ソウデスネ……」


自分でも何を言っているんだと呆れてしまう。


「ほんと……あま、ねと、いるとっ……」


堪えようとしては噴き出し、なかなか笑いが治まらず、喋ることもままならなかった飛鷹くんが、ようやくまともにわたしの名前を呼んだ。 


「ねえ、海音」

「な、なにっ!?」

「キスしてもいい?」

「え」
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