モブ子は今日も青春中!
先生 ②
「ここ、俺の見つけた最新の休息スポットなんだからな。校長には絶対に言うなよ。」
桜井先生は、いつもいい加減なことばかりしている。
「………。」
「なんだよ、三津谷かなめ。テンション上げろよ。うぇーい!ってバカか、ははっ。」
しかも、チャラい。
いくら私立高校と言えど、このゆるさは許されるのだろうか。親しみやすい桜井先生は嫌いじゃないけれど、ちょっと心配になる。
なみと兄妹である桜井先生は、もうそれだけで立場が危ういと聞く。家族と離れて独り暮らしをしているという理由で、なんとかこの高校の勤務継続を許可されたという話だ。
「先生…、今日のその格好は一体…?」
体育祭当日、先生たちは、自分の担当クラスの軍の色で服をコーディネートするのが一般的だった。
桜井先生は赤軍なんだろう、それはわかる。
でも、赤のアロハに、赤のハーフパンツ、白のタンクトップに金のネックレスって…ギラギラだな!
白いメッシュキャップの上にサングラスまで乗せている。先生もなんだかんだワイルド系イケメンだから似合うけれど!
「絶対に隠れる気、ないですよね?その格好!」
はははっと手を叩いて笑った桜井先生は、次にポンポンっと私の頭に手を乗せた。
「高校の体育祭なんて、人生で3回しかないんだ。存分に楽しめよ。」
そう微笑みながら。
「かなめ?」
その時、先生の背後から聞き馴染みのある声が聞こえた。
落ち着いた声音…兄ちゃんだ。
「あ、兄ちゃん、遅くなってごめん。この軍T、やっぱり私のところに間違えて入ってた。」
先生の脇をすり抜けて、兄ちゃんにTシャツを返す。
笑顔で受け取ってくれる兄ちゃん。
「…ふーん。」
先生は少しだけ伸びている顎髭を触りながら、こちらを眺めているようだった。
「先生、今日はまた一段と派手ですね。」
兄ちゃんが、爽やかに微笑む。
「みんなが桜井先生のおかげで、ちょっとくらい羽目を外しても、他の先生たちに怒られないって喜んでましたよ。」
あ、なるほど。
自分のために無駄にギラついてた訳じゃないんだ。
私はそんな配慮ができる先生にも、そしてそれに気づいた兄ちゃんにも関心する。
「三津谷かたる、お前もちょっとは羽目外したら?…いいんじゃない?軍Tも青いままで。」
桜井先生が楽しそうにクククッと笑う。
「ありがとうございます。僕にも考えがあるので、お構いなく。」
なんでここで軍Tの話が出てくるのか、私の頭では残念ながら理解できなかったのだけれど、兄ちゃんがいつも以上に完璧なスマイルで微笑んだから、私も口を挟まないことにした。