モブ子は今日も青春中!
体育祭が終わりました
「何事もなく、平和に体育祭が終わっていく。」
グラウンド端の縁石に両脚を抱えて座り込み、私はファイヤーストームの燃え盛る炎を眺めていた。
これから後夜祭が始まる。
「長い一日だったなぁ!」
軍Tの袖を肩まで捲りあげて、隣に座るなみが笑った。
めっちゃ満喫してますね、なみさん。
小麦色に染まった肌が、炎の光に部分的に照らされて揺らめく。
ファイヤーストームの周りや、グラウンドのあちこちで楽しそうな声が聞こえる。兄ちゃんが生徒会の人たちとともに、炎のそばで進行表の確認をしているのが見えた。この後夜祭は兄ちゃんにとって最後の生徒会活動となる。忙しそうだ。
うちの高校の後夜祭は、全校生徒がファイヤーストームの周りで肩を組み、各軍の団長と生徒会長が熱い思いのこもった挨拶を述べたあと、全員で校歌を熱唱してフィナーレを迎えるというものだ。
校歌なんて、いつもは真面目に歌わないのにこんな時ばかりは最高に盛り上がる。疲労と炎の熱がそうさせるのかもしれない。
カップルも案外多いななんて思いながら周囲を眺める。私たちは女子3人…、平和だ。
「桜井、青軍の応援リーダー集合だって!」
「はいよー!」
なみが呼ばれ、私たちに『行ってくる』と言うと、盛り上がる男女の一団の中へ向かっていった。
優里亜ちゃんと私はその様子をボーっと眺める。
「かなめちゃんは、好きな人いないの?」
ふいに、優里亜ちゃんにそう問われる。
少し冷たい風が吹いて、優里亜ちゃんの髪を揺らした。
「好きな人…か。今はそういうのいいかな。」
私はモブキャラだけど、私の人生を楽しみたいと思っている。でも、自分は主役になれない人間だと、好きになってもどうせだめだと、どこかで心にブレーキをかけて、安全な位置にいようとしているのかもしれない…。低い自己評価…、私、優里亜ちゃんこと言えないな。
「ごめん、片野さん。ちょっといいかな?」
優里亜ちゃんが、知らない男子生徒に呼ばれた。青い軍Tだけど、知らない顔だ。2年生か3年生だろう。
「あ、はい…。」
こちらを気にかけて振り向いた優里亜ちゃんに『いってらっしゃい』と声をかけ、私は1人になった。
もう月と星が出ている…。
冷たい風に身震いをする。
昼夜の寒暖差に、夏が過ぎたことを実感した。
「お前、こんなところで何してんの?」
誰かに後ろから話しかけられる。
振り返り見上げると、緑の軍Tを着た蓮見くんが私を見下ろしていた。