モブ子は今日も青春中!

後輩 ①


 高倉優馬、中学3年生。
 私の中学時代の水泳部の後輩だ。

 『黄昏のロマンス』では確か、主人公が2年生になってから、新入生という形で登場する。


「ちょうど先輩に用事があったんですけど…。」

 中3男子と言うよりは、ボーイッシュな中3女子と言った方がしっくりくるような見た目をしている。

「急いでます?」

 キュるるン…と効果音がつきそうな目でこちらを見る。


 が、優馬の見た目に騙されてはいけない。

「あ、うん。悪いけど、また今度。」

 優馬の脇をすり抜けて、家路を急ぐ。

…が、腕をしっかりと掴まれて、帰るのを阻止されてしまった。
 どこにそんな力が。

「ごめんなさい。3分だけでいいから、俺にかなめ先輩との時間をください。」

 子首を傾げて、ニコッと笑う。

 この子の本性は羊の皮を被った狼…もとい、ウサギの皮を被った肉食獣だ。
 
「3分だけだからね。」

 私は溜息混じりに言葉を返した。



 優馬の話は、うちの高校の水泳部についてだった。優馬は進学しても競泳を続けたいらしい。私は簡単にその思いを手放してしまったけれど。
 うちの高校は私立だけあって、そこそこ施設もコーチ陣も充実しているから、部活動を続けるには良い環境だと思う。

 そんな話をきっかり3分だけして、私は優馬に別れを告げた。

「あ、先輩!夏休み、最後にここで会ったとき、先輩誕生日だったんですよね!あのときは何も渡せなかったから、これあげます。」

 そう言って、優馬がまた私の腕を掴み、手に何か握らせてくる。 
 だから痛いって。

「…何これ?」

「飴です。」

 掌にはかわいいいちご飴が1つ。

「なんで?」

「だって先輩、なんかあのときボーっとしていて元気なかったじゃないですか。『誕生日なのに…』とか呟いて。」

 優馬が唇を尖らせる。

「だからこれ、元気のかけらです。心配してたんですよ!なんかちょっと、元気になったみたいで良かったです!」

 コロコロと表情を変え、最後に満面の笑みを向けてくる優馬。

 くそっ!やることが乙女!
 騙されてもいい…なんてかわいいんだと、1人脳内でごちる。


「……ん?」

 その時、私はふいに思い出した。
< 22 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop