モブ子は今日も青春中!
後輩 ①
高倉優馬、中学3年生。
私の中学時代の水泳部の後輩だ。
『黄昏のロマンス』では確か、主人公が2年生になってから、新入生という形で登場する。
「ちょうど先輩に用事があったんですけど…。」
中3男子と言うよりは、ボーイッシュな中3女子と言った方がしっくりくるような見た目をしている。
「急いでます?」
キュるるン…と効果音がつきそうな目でこちらを見る。
が、優馬の見た目に騙されてはいけない。
「あ、うん。悪いけど、また今度。」
優馬の脇をすり抜けて、家路を急ぐ。
…が、腕をしっかりと掴まれて、帰るのを阻止されてしまった。
どこにそんな力が。
「ごめんなさい。3分だけでいいから、俺にかなめ先輩との時間をください。」
子首を傾げて、ニコッと笑う。
この子の本性は羊の皮を被った狼…もとい、ウサギの皮を被った肉食獣だ。
「3分だけだからね。」
私は溜息混じりに言葉を返した。
優馬の話は、うちの高校の水泳部についてだった。優馬は進学しても競泳を続けたいらしい。私は簡単にその思いを手放してしまったけれど。
うちの高校は私立だけあって、そこそこ施設もコーチ陣も充実しているから、部活動を続けるには良い環境だと思う。
そんな話をきっかり3分だけして、私は優馬に別れを告げた。
「あ、先輩!夏休み、最後にここで会ったとき、先輩誕生日だったんですよね!あのときは何も渡せなかったから、これあげます。」
そう言って、優馬がまた私の腕を掴み、手に何か握らせてくる。
だから痛いって。
「…何これ?」
「飴です。」
掌にはかわいいいちご飴が1つ。
「なんで?」
「だって先輩、なんかあのときボーっとしていて元気なかったじゃないですか。『誕生日なのに…』とか呟いて。」
優馬が唇を尖らせる。
「だからこれ、元気のかけらです。心配してたんですよ!なんかちょっと、元気になったみたいで良かったです!」
コロコロと表情を変え、最後に満面の笑みを向けてくる優馬。
くそっ!やることが乙女!
騙されてもいい…なんてかわいいんだと、1人脳内でごちる。
「……ん?」
その時、私はふいに思い出した。