モブ子は今日も青春中!
第六章
パソコンを開きました
玄関のドアを静かに開ける。
明かりの灯るリビングを横目に、階段を音を立てないように上った。
兄ちゃんの部屋の明かりが、ドアの隙間から溢れている。
自分の部屋へ入り、ベッドの反対側、左側の一角へと向かう。
暗闇の中、ボタンを押すと、パソコンの起動音だけが部屋に響いて、画面が眩しく光った。
CD_ROMの回る音がする。
そして、次に現れる画面…。
「『黄昏のロマンス』だ…。」
『黄昏のロマンス』
アイドル好きのアラサー独身OLが転生し、女子高生として攻略対象たちと、恋愛を繰り広げるゲーム。
その攻略対象は、俺様だけど本当は自分を叱ってほしい同級生、チャラ男だけど根は真面目な先生、かわいい系だけど本性は腹黒な後輩、優しく爽やかだけど魔性な…先輩。
私はこのゲームが大好きで、全イベントを攻略するために、何度も繰り返し、プレイしていた。
私…転生なんて、してなかったんだ。
「キャラデザインと全然違うじゃん。」
優里亜ちゃん、蓮見くん、桜井先生、優馬、…兄ちゃん、みんなの顔が頭をよぎる。
私は、今まで何を見ていたんだろう。
今いるここは紛れもない現実で、みんな1人の人間だったのに。
ゲームのキャラにあてはめて。
自分の箱庭で安心して暮らしていたかったんだ…。
記憶の蓋が開き、あの日の出来事が…走馬灯のように駆け巡った。