モブ子は今日も青春中!
第七章
あいさつができました
「寒いー!」
雪の降らないこの地域でも、12月の風は冷たくて、私は青空を見上げて思わず叫んだ。
「かなめ、もういいの?」
なみがダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだまま尋ねてくる。息は白く、鼻は赤い。
「うん!つき合ってくれてありがとう。」
ここはうちから電車で1時間ほどの、海の見える丘にある墓地だ。
お父さんたちの話を聞いて、まず私がしたいと思ったのは、自分と血のつながった父親に会いに行きたいということだった。
きれいなところで良かった。
『ありがとう、あなたのおかげで、私がいます。』そう心で呟いて、両手を合わせた。
カモメが太陽の近くを翔んだ。
「ごはん、食べて帰ろう!ハンバーガーくらいならご馳走するよ。」
私は今、晴れ渡る空や、澄み切った風のように清々しい気持ちだった。
「優里亜、彼氏できたんだって?」
なみがハンバーガーを口に咥えながら言った。
「うん、この前聞いて驚いたよー。」
本当にびっくりした。
『なかなか打ち明けられなくてごめん。体育祭のときに告白されて、それからしばらくして付き合うことに…。』
恥ずかしそうに、でもとても幸せそうに優里亜ちゃんは教えてくれた。
『全然ジャニスとは違って、イケメンとかじゃないんだけどね。』
その顔を見たら、こちらまで幸せで破顔してしまいそうなくらいだった。相手は現生徒会の人だそうだ。
本当に、ここはゲームの世界じゃなかったんだな…と考える。
みんなそれぞれ、自分の人生を、自分の意思で一生懸命生きているんだ。
私も、モブなんかじゃない。
自分の人生の主人公は自分だ。
「優里亜、変わったよね。自分から人とかかわるようになった。生徒会にも入っちゃったし。」
なみが嬉しそうに笑った。
文化祭で忙しそうに、楽しそうに動き回る優里亜ちゃんを思い出す。
今日も、生徒会の仕事だと言っていたから、恋人と元気に活動しているに違いない。
その姿を想像して微笑んだ私を見て、なみが続ける。
「優里亜、かなめのおかげだって言ってたよ。かなめが自分に話しかけてくれたから、何事も諦めないでやってみようって思えるようになったって。」
優里亜ちゃん…。
「ゲームに転生に、かなめの勘違いだらけだったけど、結果オーライなんじゃない?」
なみ…。
私は嬉しくて、目じりの涙をぬぐいながら、笑った。