モブ子は今日も青春中!

兄 ④


 兄ちゃんの変貌ぶりは、家の中に留まることなく、学校でも続いていた。


「…かなめ、手。」

 一緒に登校しようと微笑まれ、なぜか私の自転車1台を相乗りし、校門まで辿り着いてみれば、今度はしれっと手を差し出してくる。

 私は目を丸くして、その手を見つめる。
「いやいや、手って…。」

「大丈夫。俺、とある一件から超シスコンって有名だから。」

 …う。それを言われると弱い。

「手、つなごう?」

 困った顔をして兄ちゃんを見上げれば、兄ちゃんはニコニコと笑って私の手を取った。



「仲良く登校していたねえ。」
 
 優里亜ちゃんがとても嬉しそうに顔をほころばせる。優里亜ちゃんには、なみ同様、うちの家族のことは報告済みだ。

「なんか、変なんだよ兄ちゃん。むずむずして落ち着かない。」

 私は両腕を抱いて、肩を震わせた。


「あらー。かなめちゃんのお兄さん、前からかなめちゃんに心酔している様子だったじゃない。」 

 優里亜ちゃんの発言に言葉を失う。

「あれ?気づいてなかった?私、お兄さんに初めて会ったときからもう感づいていたんだけれど。」

 優里亜ちゃんが口元に片手をそえた。

 兄ちゃんと優里亜ちゃんが初めて出会ったのは、確か体育祭のときだ。

 あのとき、取り違えた軍Tを交換するために教室へ戻っていった私を、兄ちゃんは、優里亜ちゃんいわく、『憂いを帯びた表情』で見つめていたそうだ。

 『憂いを帯びた表情』って…ちょっと言い過ぎではないでしょうか?

「あのとき私、『イケメンの憂い顔、最高!』って思ったもの。」

 優里亜ちゃんがまさしく『憂いを帯びた表情』で溜息をついた。


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