モブ子は今日も青春中!

兄 ⑥


 月曜日、今日は祝日だ。
 冷たい空気の中、目が覚める。

 階段を降りて、リビングに入る。足を床につけるたびにひんやりとして、冬の朝を実感する。

 暖房をつけて、お湯沸かす。
 ココアをマグカップに入れて、ラグに座り、映画をつける。

 …あの日の兄ちゃんを思い出す。後ろから抱きしめられた時、慣れないことに緊張してしまった。

 
『勉強がんばるからさ、クリスマスは2人で過ごそう?』

 嘘つき、いなくなっちゃったじゃん。


『そろそろ、自分の気持ち、認めたら?』

 だって、私たち…兄妹じゃん…。


 私は自分の両肩を抱いて、涙が出てくるのを必死に堪えた。


 兄ちゃんがいない…。
 家からいなくなってまだたった2日しか経っていないのに、会いたい思いは募るばかりだった。

 伊吹さんという人と、また一緒にいるのだろうか。胸がチクンッと痛む。

 でも兄ちゃんは、『俺もがんばる』って言っていたから、どこかできっと今も受験勉強に励んでいる…そんな気がした。

「かなめ?…泣いてるの?」

 お母さんがリビングのドアを開け、中に入ってきた。

 私は慌てて涙を拭う。

「ごめん。なんでもないよ。」

「…なんでもないこと、ないでしょう?」

 お母さんが微笑む。
 その顔に見つめられたら、また涙が溢れてきた。

 お母さんが私にすり寄り、背中を擦ってくれる。

「かたるのこと…?」


「…ごめん、お母さん。私、兄ちゃんに会いたい。」

 お母さんが頷く。

「泣かなくていいのよ、…泣かなくていいの。」

「ごめん…。」

「お母さんも、お父さんも…あなたたちの幸せを一番に願っているから。」



 お母さんはそれから兄ちゃんの居場所を教えてくれた。
 夜は『夏子さん』の家にいるが、昼間は図書館で勉強しているのだという。

「今日、そこにいるかはわからないけど。」

 お母さんはそう言って私を送り出してくれた。

「…ありがとう。」

 私は自転車に乗って、図書館に向かった。

 ただただ、兄ちゃんに会いたかった。
 その一心でペダルを漕ぐ。
 外の空気は冷たくて、私は向かい風の中、必死に先を急いだ。



 静寂に包まれた図書館の中を、なるべく音を立てないように足早に歩く。

 本棚と本棚の間の学習コーナーを、何ヵ所も何ヵ所も確認しては進む。
 多くの人がそこで、本を閲覧したり、学習をしたり、パソコンを操作したりしていた。

 そのうちの1ヵ所で…足が止まる。
 胸がキュッと締めつけられる。

 兄ちゃんが…真剣な表情で勉強をしていた。
 時々、顔を上げ、首を振ってまた机に向き直る。

「………。」

 声を掛けたかった。
 だけど邪魔をしてはいけないと思った。

 
 私は高鳴る胸をおさえ、鼓動の音を確かめながら、少しの間、兄ちゃんを見つめていた。

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