モブ子は今日も青春中!
主人公 ①
「おはよー!」
事故に遭う前も通っていたはずなのに、なんだか新鮮な気持ちで、教室に入る。
モブだけど、友達は多い方…だと思う。と言うか、競争とは無縁の世界の住人ですから。まさにアベレージキャラ。
そんな私や周りの友達から、一歩抜きん出ている高嶺の花、それが優里亜さんだ。
優里亜さんは憂いを帯びた表情で、さらさらのストレートヘアを風になびかせ、朝から小説を読んでいた。
以前まではなんだか近寄りがたくて、遠巻きに見ているだけだったけれど、今の私は違う。
ただのモブキャラじゃないのだ。自分が転生者だと認識しているモブキャラだ。もう一人の自分が自分を客観視している。メタ認知最高。
「おはよう!優里亜さん。」
私は知っている。
優里亜さんの本性が筋金入りのアイドルオタクであることを。鞄から覗き見えた、クリアケースの中で笑うジャニスボーイプロマイドを。
「あ、おはよう。三津谷さん。」
優里亜さんが少し驚いて、顔を上げる。
「何読んでるの?」
彼女の手元の文庫本を指差す。カバーがしっかりとかけられていて、タイトルがわからない。簡単には心のうちを見せない彼女のようだ。
「…ああ、えっと、『君の手に継ぐ』って本なんだけど。」
聞き覚えのあるタイトル…。
「確か、それって今度、ジャニスボーイの仲谷くんが出る映画の原作?」
「うん!そうなの!!三津谷さん、仲谷くん知ってるの?!」
いきなり両手を掴まれて、思わずたじろいでしまいそうになる。だけど、ここで私は踏ん張った。
「知ってるよ!私もジャニス結構好き。」
私はゲームの進行を邪魔するつもりはないし、みんなが自分の意思で、自分なりの幸せを掴めたら最高だと思っている。私はモブキャラだけど、このゲームの登場人物のみんなが大好きだから。
邪魔はしないけど、私も私の人生、自分の意思で大好きな人たちと関わりたい!
優里亜さんとも全力で仲良くなっちゃうんだから!
美女と薄味顔が楽しそうに語らい合う様子を、クラスメイトが遠巻きに眺めていた。