モブ子は今日も青春中!

恋人 ①


 玄関のドアが開く。

「ただいま。」

 コンビニの袋を手にかたるくんが帰ってきた。

「おかえりなさい。」

 静かな室内に一瞬不思議そうな表情をして、「ああ、また仕事で呼び出されたのか。」とかたるくんが呟いた。

 出迎えて、頷く。


「…伊吹さんから、色々聞いたよ。今日、来て良かった。」

 そう微笑んだ私を見て、かたるくんがソファーに座る。

「そっか。…食べる?」

 手にはバニラアイス。

「いいの?」

「夏子さんのはまた買ってくるから大丈夫。ん、ここ座って?」

 そう言ってかたるくんが指し示したのは、彼の膝の上だった。
 目が点になる。

「いやいやいや、たくさん場所はあるし。」

「いいから。俺がこうしたいの。」

 半ば無理やり、彼の膝の上に座らせられる。ソファーがその重みで沈み込み、私は彼に包まれた。

「はい、あーん。」

 バニラアイスを口に運ばれる。
 何これ、超恥ずかしい。

 されるがままにアイスを食べた。

 冷たいのに、全身が火照る。


「かなめ…キスしていい?」

 かたるくんが優しく微笑む。

「…うん。」

 包み込まれたまま、キスをする。

「…甘いな。」

 彼がそう呟き、舌を出した。
 その光景をぼーっと眺める。

「そんな顔してていいの?ここは俺が今暮らしてる家で、他に誰もいないんだよ。」

 そう囁かれてハッとする。
 今はまだダメだ。

『あなたも後悔しないように、自分に正直になって。相手があなたを受け入れてくれるなら、そこに向かってまっすぐに飛び込んでみてほしいの。』

 伊吹さんの言葉を反芻する。
 今はまだ…ダメだ。

「かたるくん、あのね。私、かたるくんが大好き。だからね、かたるくんの受験が終わるまで、待ちたいって思うの。」

「え?」

「かたるくんの大学が決まって、かたるくんが『伊吹かたる』になったら、そのときに、ちゃんと抱きしめてほしい。」

 恥ずかしい…けど、気持ちをちゃんと伝えなきゃって思った。

 かたるくんは、顔を真っ赤にした私を見据える。

 そして、

「いいね、それ。受かる気しかしない。」

 満足そうに顔をほころばせた。

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