モブ子は今日も青春中!
恋人 ②
それからかたるくんは、年末年始に一度だけ家に戻ってきて、あとは伊吹さんの家で勉強に励んでいた。
三学期、3年生は自由登校期間に入り、あまり学校でもその姿を見かけることができなくなった。
最後に会ったのは、初詣のときだったから、もうだいぶ会えていない。
センター試験前日にラインをして、寝る前に少しだけ電話で話した。
邪魔はしたくない。その後、私から電話をかけることはなかった。
生徒玄関で偶然、蓮見くんに会ったとき、相談に乗ってくれたお礼と、自分の気持ちに気づけたことを伝えた。蓮見くんは、楽しそうに笑って祝福してくれた。
2月25日、大学の前期試験が終わった。
でも、かたるくんから連絡が来ることはなかった。
大丈夫だったかな…何かあったのかな…ひょっとして失敗して落ち込んでいるのかな…。
悪い考えが頭の中をぐるぐる回っては私を不安にさせた。
だけど、自分から会いに行ったりはしなかった。
『待つ』と言ったのだから、信じて待とうと思っていた。
3月6日。合格発表日。
朝からずっとそわそわが止まらなかった。私だけではない。家族みんな、いつもより落ち着きがなかった。
学校に行っても鳴らないスマホを気にしてばかりいる私に、優里亜ちゃんとなみが、寄り添い、頭を撫でてくれた。
家に帰る足取りも、いつもより数段早くなった。今日も寒い日だったけど、先月までに比べると、日差しが少し柔らかかった。私は、自転車を漕いで家路へと急いだ。
ふと、公園の前で足を止める。
そこに、一番会いたいと願っていた愛おしい人がいた。
「かなめ、おかえり。」
「かたるくん…。」
「早く伝えたくて、待ってたんだ。」
かたるくんが微笑む。
「ここ、覚えてる?かなめが、俺の告白を聴いて、逃げ出して事故った場所。」
覚えているも何も、私はそれから数カ月、ゲームの世界に転生したモブだと勘違いしていたのだから、忘れられるはずもない。
「ははっ。そんな怪訝な顔をするなよ。あの日から今まで、本当にいろんなことがあったけど、今、こうして1人の男として、かなめと向き合えてるのがすごく嬉しいんだ。」
「うん…。」
かたるくんから保健室で言われた言葉を思い出す。
「俺、合格したよ。試験のあと、手続きをして名前も『伊吹かたる』になった。だから…、改めて言わせて。」
私は『兄ちゃん』じゃなくて『男として』、この人が好きだ。
「三津谷かなめさん。俺と付き合ってください。俺と、ずっと一緒にいてください。」
「うん!」
私は、自転車が倒れるのも気にせず、かたるくんの胸に飛びこんだ。
かたるくんが嬉しそうに笑った。
私も笑った。
もう、絶対に何があっても、離れないってそう思った。