モブ子は今日も青春中!
俺様 ②
「…なんか本当、すいませんでした。」
補習課題が終わったのはそれから40分後のことで、スマホ片手に何か作業をしていた蓮見くんに声を掛け、職員室に提出に行けば、英語教師は補習のことをすっかり忘れていて、『まだ残っていたの?』とまで言われる始末。
そしてなぜかもう遅いからと、ひぐらしが鳴く中、自転車を押してもらい、蓮見くんに送ってもらっているという事実。
「お前の家まで着いたら、タクシーで帰る。」
なんか本当、すみません。
「お前、…名前は?」
蓮見くんが訝しげな顔で、私を見る。
えっ?今そこ?1時間近く2人でいたのに?それに一応隣のクラスなんですが。
薄味顔のモブキャラのなせる技か。自分の印象の薄さを再度自覚する。
「三津谷かなめです。」
「かなめか…。おい、かなめ、敬語やめろよ。」
蓮見くんが、高い位置から笑う。
なんてこと。驚愕だ。
なんで急に距離を縮めてきますかね、蓮見くん。
「…蓮見くん、そういう言い方、気をつけなよ。」
私は思わずため息をついた。
罪な男だ。
こんな流れで、ドキッとしない女子はいないだろう。
「何をだよ。」
蓮見くんが車道の方を見ながら、ボソッと呟いた。
「………。」
「………。」
…話題!
夜の帳が下りるとともに無言になってしまった蓮見くんに耐えきれず、私は必死で話題を探す。
なんだよー、何かしゃべってよ。
そうだ、スポーツ。勉強はトンチンカンでも、スポーツの話題ならいけるかも。
私は、努めて笑顔で蓮見くんを見上げた。
「…ねえ、蓮見くん。サッカー好き?私の家、兄ちゃんがいるからよくサッカーを見るんだけど。」
「…それって、あの人?」
突然自転車を引く手を止め、蓮見くんが立ち止まる。彼の視線の先を追う。
「………兄ちゃん?」
歩道の先、街灯の下で、兄はにこやかな笑顔を私たちに向けていた。