モブ子は今日も青春中!
第三章

主人公 ②



 気温32℃、体感温度40 ℃。

 暑い。
 本当に10月に入ったのでしょうか。

「こんな暑い日に体育祭とか無理。」

 体力もそこそこな私は早々にバテて、優里亜ちゃんが保健委員として働く救護用テントに避難していた。

「そんなかなめちゃんに、元気の出るお茶をあげる。」

 優里亜ちゃんが冷たいグラスを笑顔で差し出してくれる。
 天使か…。私は麦茶という名の聖水で喉を潤した。


「なみちゃんはすごいね。応援リーダーとか、選抜リレーとか、輝いてるね。」

 私には優里亜ちゃんも輝いて見えます。
 青いハチマキをヘアバンド代わりにしている優里亜ちゃんは、今日も間違いなく綺麗だ。

 あれ?そういえば私も同じヘアスタイルなんですが。やめよう…これ以上は不毛だ。


「ところで、優里亜ちゃん。高校に入ってから初めての体育祭を迎えた訳だけど、なんかこう、ラブ的な展開はないの?」

 私はゴシップ好きのおばさまのような口調になる。いいじゃない、体育祭に熱中できるようなタイプの人間じゃないんだもの。

 周りの生徒だって、聞き耳をそばだてているのが、空気で伝わってくる。

「えー!ないない、何もないよ。…ほら、私なんて、イケメン好きのただのオタクだから。」

 優里亜ちゃんはジャニス好きを公にはしたくないらしい。途中から小声で私にだけ耳打ちしてくれた。

 どうも優里亜ちゃんは自己評価があまり高くないようである。容姿端麗だけど、それが自己評価に直結することってあまりないのかもしれない。
 優里亜ちゃんがどんな人生を生きてきたのか残念ながら私は知らない。恋愛ゲームの主人公って自分を投影しやすいようにあまりそこに触れていないから。

 優里亜ちゃんは優しい。そして中身もかわいい。それがみんなにも伝わったらいいのになと思う。


 ということで、おいおいおいおい、周りのイケメンはどうした…?
 まだ誰も優里亜ちゃんにモーションをかけていないの?
 それとも、私の知らないところで、後輩キャラルートに入ってる?

 だとすれば、ストーリーが動くのは2年生になってからなんだろうか。もしそうなら相手はあの子なんだけど…。

「そっかー。勿体無いなあ。」

 思わず本心が漏れる私だった。


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