懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
時計と睨めっこをしていただろう亮介を想像して、過去の自分がどれほど幸せだったか思い知った。もちろん、今はそれ以上にハッピーだ。
ゆったりとした時間のなか夜景と食事を楽しんでからエレベーターホールへ来ると、亮介はなぜか乗降ボタンの上をタッチした。
「帰らないんですか?」
「今夜はここに泊まろうと思ってね。里帆と特別な夜にしたい」
繋いでいた指先に力が込められ、ドキンと鼓動が弾む。里帆を見下ろした目に甘い色が滲み、思わずサッと反らした。
さっき席を外したのは花束の用意だけでなく、チェックインをしにいったのかもしれない。
エレベーターが到着し、ふたりを乗せて静かに上がっていく。
不意打ちで訪れたロマンチックなムードに体がふわふわした心地だ。上から糸で吊られたマリオネットのように、どことなく不自然に体が浮つく。亮介に手を繋がれていなければ飛んでしまいそう。
ポンと軽やかな音を立ててエレベーターが止まり、彼に手を引かれてふかふかの絨毯を歩く。
亮介にいざなわれて入ったのは、最高の夜を過ごすにふさわしいスイートルームだった。