懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「野崎」
自分の椅子に腰を下ろした亮介は静かに名前を呼び、野崎を見上げた。
「は、はいっ」
怯えさせるつもりはなかったが、低音の声に振る舞いのまずさを直感したのだろう。ピンと背筋を伸ばした野崎が直立不動になる。
「これから秘書としてやっていくのなら、まずは冷静な態度を身につけるべきだな」
成島レベルまでとは言わない。逆に彼はもう少しテンションを上げてもらいたいくらいだ。
「……はい。わかってはいるのですが、つい」
野崎がしゅんと肩を落とす。自覚はあるらしい。
まぁ、成島が人選したのだから、それなりに資質はあるのだろう。
亮介は小さく息を吐いてから続けた。
「俺の専任秘書になったわけだから、隠しておくわけにもいかないだろう。五月に子どもが産まれる予定だ。さっきの会長との会話を聞いていたからわかると思うが、入籍はまだしてない」