懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「それを言うなら、こっちのほうよ」
喜代が里帆の腕をそっと掴んで揺らす。
「隆一さんが、里帆さんにとっても失礼なことをしたって聞いたわ」
手切れ金の話を言っているのだろう。
「うちのお父さんがいつまでも納得しないから、お兄ちゃんも連れてこられないのよね。ほんっと強情なんだから」
杏は軽く頬を膨らませた。ロングヘアの彼女は、髪を短くしたら瓜二つなほど母親によく似ている。
「里帆さんには嫌な思いをさせてごめんなさいね。私も杏も、早くあなたに会ってみたくて、こうして押しかけてきちゃったわ」
そんな言葉をかけてもらえるとは思いもせず、ふたりを前にして涙腺が緩みそうになる。
ホルモンバランスの変化でそうなのかもしれないが、妊娠してからというもの、どうも涙もろくなっている気がしてならない。
父親には反対されているから余計だろう。