懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました


ひとりになってから、もう七年になる。


「お産は、夫婦ふたりでも大変な大仕事よ。だから、里帆さんさえよければ、いつでも私に甘えてほしいの。出産直後は体を労わらなきゃならないし、私にできることはなんでもするから」


両親を亡くしてからずっと、家族とは無縁の世界で生きてきた。ベーカリー工房みなみの幸則と一子もそうだったが、あたたかく迎え入れてもらえる自分は、なんて幸せ者なのだろう。

初めての出産はわからないことだらけ。子育てに関してもそう。
亮介とふたりでなんとかやっていこうとは考えていたが、子育ての先輩である喜代の存在は心強い味方だ。


「昔と今とじゃいろいろ違う面があるから私も勉強しなきゃならないけど、里帆さんがひとりで抱え込む必要はないからね? いつでも頼ってちょうだい」
「はい、ありがとうございます……」


喜代のあたたかい言葉が胸にじんわりと広がっていく。とうとう堪えきれなくなり、里帆の目から涙が溢れる。


「あっ、もう、お母さんってば! 里帆さんを泣かせちゃダメじゃない」
「ほんとね。ごめんなさい、里帆さん。そんなつもりじゃなかったの」
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