上司の過去と部下の秘密〜隠れ御曹司は本気の恋を逃さない〜
「しおり、俺を見て」

せつなさを漂わせた涼介さんの声に、おずおずと顔を上げた。その先には、なんの迷いもない、まっすぐな瞳が、私を優しく見つめていた。

「しおり。こうやって、しおりを動揺させてしまうってことがわかっていて、すぐに言い出せなかった。ごめん。もっと早く言うべきことだったってわかってる。しおりに逃げられたくなくて、臆病になっていた。だから週末、事実とこの不安な気持ちを哲平さんにも聞いてもらったんだ」

涼介さんの瞳が、不安に揺らぐ。
そんな顔を見たくなくて、胸を締め付けられた。

「俺が社長の息子であることは、自分ではどうしようもできないことだ。そのことで避けられてしまったら、俺はどうしたらいいんだろうか。
俺が会社を継ぐことは予定外のことで、後から勝手についてきたことだ。もちろん、拒否することはできた。でも、俺だってしおりにいい暮らしをさせてやりたいと思ったから、自然と受ける気になれた。しおりがいたから。しおりがいれば、仕事にだって全力で向かえる。だから、この話を前向きに考えられた」

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