エリート御曹司は溺甘パパでした~結婚前より熱く愛されています~
「思い出せないのに、波多野さんのことがすごく大切だったんだろうなという気持ちだけは湧いてきた。それを沖に打ち明けたら、同棲していたマンションの存在を知らされてすぐに向かった。でも、もうもぬけの殻で……」
あのマンションは、事故の日のちょうど三年前くらいに購入したはずだ。
マンションの存在自体が、記憶から抜け落ちていたのか。
でも、あれからマンションに来たの?
そのとき会えていたら、今頃違った未来を歩いていたのだろうか。
ううん。結局思い出していないのだから、これでよかったんだ。
気持ちが激しく揺れ動き、焦点が定まらない。
「ママ。これ、炭酸だったよぉ」
そこに和宏がオレンジジュースを手に戻ってきて泣きべそをかいている。
彼は炭酸が苦手なのだ。
「おっ、それじゃあこれは俺が飲むよ。和宏くん、一緒に取りに行こう」
和宏の手からコップを奪った宏希さんは、まるで父親のように優しい笑みを浮かべ、席を立っていってしまった。