エリート御曹司は溺甘パパでした~結婚前より熱く愛されています~
「波多野さん、どうかした?」
「いえっ」
私が唖然としていたからだろうか。
宏希さんが不思議そうな顔をする。
『握力ない』って間違いなく言ったよ、ね。
私はたしかに力がなく、固くて開かないふたはいつも彼に助けてもらっていた。
それを覚えてる?
「あっ、ごちそうさまでした。これ……」
私が財布を差し出すと彼は受け取り、自分が持っていたボトルのキャップもひねる。
「これくらい。……あれっ」
そしてスポーツ飲料をじっと見つめたまま動かくなった。
「俺……波多野さんが握力弱いこと、知ってる」
私に視線を移した彼は、それから黙ってしばらくなにかを考えている。
他にも思い出したの?
一縷の望みにすがりたい私は、ペットボトルをギュッと握りしめて、彼と視線を絡ませていた。
「ごめん」
しかし彼は悔しそうに唇を噛みしめ、視線をそらす。
それ以上は思い出せなかったのだろう。
けれど、もしかしたらこれからも同じようなことがあるかもしれないと望みがつながった。