秘密の恋はアトリエで(前編) 続・二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
 長いストレートの黒髪は貴子さんと同じ髪形。
 心の古傷は自分が思うよりもまだ癒えていなかった。

 あの頃のように、また靭也を見つめるだけの日々に戻ることが耐えがたかった。

「……ばかだな。他の女になんか目をくれるはずないだろ。おれには夏瑛がいるのに」

「わたしだってそう思いたかった。わたし以外の人を好きになるなんて100%あり得ないって。でもどうしてもそう思いきれなくて――」

 目の前がぼやけてきた。
 鼻の奥がつんと痛くなる。
 嫌だ、泣きたくない。
 奥歯をかみしめて涙を押しとどめる。

 靭也が夏瑛の両腕をぎゅっと掴み、自分の方に向かせた。

「じゃあ、どうすればわかってくれるの? おれにとって大切なのは夏瑛だけだって」
 
 痛みを感じるほど強く掴まれた腕から、靭也の気持ちが伝わってくる。
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