秘密の片想い

 ひと呼吸おいてから、奥様の方が口を開いた。

「介護保険を、手厚くするために来たのよ。それで、将来の不安に備えたつもりが、ね」

「なんだか、お先真っ暗な気持ちになってなあ」

 保険をお勧めして、お客様の不安を払拭するつもりが、お客様に不安を与えていては話にならない。

「すみませんでした」

 思わず頭を下げると、お二人は面食らったような声を出す。

「あなたが悪いわけじゃないのよ。顔を上げて」

「でも」

 きっと三嶋なら、こんな風に不安に思わせたまま帰したりしない。
 私は、不安に思っていることさえ、気づけなかった。

「あなたにもらったパンフレット。よく読んでみて、また相談にくるわ」

「はい。いつでもいらしてください」

「予約して来ますよ。あなた、人気みたいだから」

「え」

 お二人をまじまじと見つめると、奥様はふふふっと可愛らしく笑った。

「ご近所のご夫婦に、タケウチ保険事務所の上野さんが丁寧だからって教えてもらって来たんだよ」

 ご主人から、まさかの報告を受ける。

「そ、それはありがとうございます」

「本当に、丁寧で。また、来ますね」

「はい。お願いします」

 もう一度、深く頭を下げる。
 お二人が角を曲がるまで、ずっと見送り続けた。
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