秘密の片想い

 営業には行かせてもらえなかったけれど、窓口業務で保険やお客様の対応を学んだ。

 そのため、正式な配属は3人は保険営業だったけれど、私は窓口業務に落ち着いた。

 初めて自分一人で受け持ったお客様は、自営業を営む方だった。
 国民年金だけでは不安だからと、なにか個人年金に入りたいという相談だった。

「国民年金基金という制度は、ご存じでしょうか」

「国民年金とは別に入るやつだろ? それくらいは知っている。iDeCoというのも調べた。どれもこれも私には合わない」

 ずいぶんと、勉強なさっている方のようだ。
 恰幅のいい体がカウンターから、こちらへ乗り越えて来そうなくらいの熱量で話をされる。

「それで調べ尽くした結果、ここの個人年金にしようと思ったんだ。あんたみたいな若いお姉さんじゃ、頼りにならないね。もっと詳しい人はいないの?」

「私は……」

「わたくしが承りましょう」

 近くに控えていた先輩社員が声をかけ、私と交代するように目配せした。
 ベテランの男性社員に、お客様も「そうそう。あんたみたいな人がいいんだよ」と歓迎しているようだ。
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