イルカ、恋うた
美月は一気に不機嫌になった。


手を離し、早足に出入口に進む。


「ち、ちょっと。お嬢さん!待ってください!!」


彼女を捕まえて、向き合ってから注意した。


「危険ですから。一人では……あの…何か、俺気に入らないこと……」

「さっき」と彼女は呟く。


ああ、そうか。早く終らそうみたいなこと言ったから。


そうだよね。久しぶりに目を覚ました父親の、服を買うんだから…


「すみません。少しは時間欲しいですよね」


頭を下げた。


「違う!さっきから、敬語。他人行儀!!」


「え?……そんなことで怒っていらしたんですか?」


もう、いい!と、また一人で行こうとする。


「美月、頼むから困らせないでくれ」


彼女はおずおずと手を出す。


俺はその手を取った。


入店して、すぐ警備員がいたので、挨拶と簡単に説明した。


できるだけ、防犯カメラの視界にいることを勧められた。


お目当てのお店に入ると、彼女は店員に、同じカーディガンはないかと訊いた。


その後、店員は倉庫へ向かった。


待ってる間のこと。


「つまんない……」


美月は、天井の防犯カメラを見てぼやいた。


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