俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
翌日午前十時、美術館の入り口へ足早に向かう私の耳に、すれ違う女性たちの声が耳に入った。


「ねえ、あの人カッコいい!」

「誰かと待ち合わせかな?」


チラチラと無遠慮な視線を女性たちが投げかける。

その視線の先に佇んでいる長身の男性。


カーキの半袖シャツに細身のブルーデニム。

何気ない装いなのに目を引くのはその整いすぎた容貌のせいかもしれない。

サラサラの漆黒の髪に伏し目がちの二重の目は暑さのせいか、どこか気怠そうだ。


ドキン。

その姿を目にした途端、鼓動がひとつ大きな音をたてた。

緊張なのかよくわからない感情が胸の内側から湧き出る。

近寄るのがなぜか躊躇われて、無意識に足を止めてしまう。


不意に男性が視線を動かして、その目に私をとらえる。

視線が合った瞬間、背中に痺れが走る。


「……なんで立ち止まってるんだ?」


訝しげに小首を傾げてゆったりと近づいてくる。

ただそれだけの仕草に、どうしてこんなに色香があるんだろう。

「あ、いえ」

おはようございます、とかお待たせしました、とか気の利いた挨拶はたくさんあるはずなのに、口から紡がれた言葉は乏しいものだった。

うまく声が出せない。

ただ姿を見ただけなのに、なぜか頭がうまく働かない。
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