俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
でも、そんな意味があるなんて、なにひとつ教えられていなかったし、ドレスも自ら望んだわけでもなかった。

リハビリ、というだけでそこまでする必要があったのだろうか。


「……私だってあの人の特別になりたかったのに……」

辺見さんはグッと唇を噛みしめて踵を返し、大きな音を立ててお手洗いから出て行った。

なすすべもなく、私はただ佇んでいた。


鏡に映る綺麗なドレスを見るのがつらい。

ほんの少し前のキラキラした高揚感は消え、居心地の悪さだけを感じていた。


どれほどそこにいただろう。

とりあえずこの場所から動かなくてはと考え、のろのろと手を洗って外に出た。


近くのロビーに愁さんが心配そうな表情で立っていた。

なかなか戻らない私を気にして迎えに来てくれていたようだった。

私を見るなり、具合が悪いのかと尋ねてきた。


……あなたが事実を教えてくれないから混乱しているの、どうしてなにも教えてくれなかったの、と感情のままに問えたらどれほど楽だろう。

でも社会人として、この人の立場も理解できる私にはそんな真似はできない。


自分の気持ちひとつ満足に伝えられない私にそんな資格はない。

なぜ私になんの確認もなくこのドレスを、こんな真似をとは言えない。

衆人環視の中で彼の立場を悪くする発言なんてできない。

こんな時でも冷静に考えてしまう自分が嫌で仕方ない。


「帰ろうか」と促されて素直に頷く。

主催者である辺見さんの婚約者にはすでに退出の挨拶を済たようだった。
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