俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
その時、扉の向こう側で大きな声が響き、荒々しい足音がどんどん近づいてくる。


「沙和!」


ノックもなく、いささか乱暴に扉が開けられ、ここにいるはずのない人物がそこには立っていた。

普段の優美な物腰からは信じられないくらいに慌てた様相だった。


「愁さん?」


声に出した途端、目の前が暗く覆われ、きつく抱きしめられたのだと悟る。

ふわりと感じる香りの中に微かに汗の匂いが漂う。


腕の中から見上げると、いつもきちんと整えられている髪はくずれていて、額には汗が浮かんでいた。

端正な面立ちには険しい表情が浮かんでいて、スーツもどこか埃っぽくなっている。


「……よかった、無事で」


無理やり絞り出したような低い声が微かに震えていた。

抱きしめる腕は痛いくらいで、私の身になにかあったらと恐怖と心配の中でここまで駆けつけてきてくれたのだとわかる。


「……大丈夫、心配をかけてごめんなさい」

そっと広い背中に腕を回す。

伝わる速い鼓動と温もりに愛しさが込み上げる。


「沙和が無事ならそれでいい」

大きな息を吐く音が聞こえ、少しだけ身体を離して目尻にキスが落とされる。


この手は私を無条件に包んで、守って抱きしめてくれる。

嬉しくて切なくて言葉が出てこなくなる。
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