俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
持ってくる? ちょっと待って、なにか聞き間違えた?


思わず間抜けな声を出すと、彼がクスリと声を漏らす。

三日月型に細められた目に釘付けになってしまう。


「今日は持っていないから、また会いに来る」

一言一句区切るようにゆっくりと言い直される。


会いに来る?


「待ってください、ここ、会社ですよ?」


コンビニや近所に買い物に行くわけではないのだ。

信じられない気軽な発言に目をむく。

大企業の社長がたかだか取引銀行の一社員に、仕事でもないのに忘れものを届ける必要なんかない。

誰かに言づけるか郵送でもすればいいだけだ。


「じゃあ、外で会うか?」

しれっと言われて、グッと返事に詰まる。

からかわれているとしか思えない。


私の右の耳朶を長い指で弄ぶ。

触れられた耳がカッと熱を持つ。

恥ずかしいのになぜかその手を振り払えない。


どうしてこの人はこんなに優しい手つきで触れてくるのだろう。


「商談もあるし、また来店するからその時に持ってくる。連絡先を教えてくれ」

私に触れていた手をそっと放し、仕立てのよいスーツの内側のポケットから取り出したスマートフォンを渡された。

手が微かに震える。


……連絡先なんて絶対に教えたくない。
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